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【新著連載】Q24.社内の理解が得られない

投稿日時:2013/06/11(火) 16:04rss

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q24.社内の理解が得られない

→A.社内営業の戦略と戦術を練れば、道は開ける


 社内起業家は、社内営業が起業の第一歩であり、エネルギーの大半を使うことになると心得ています。もし、社内の理解が得られないとすれば、それは社内営業の戦略や戦術がまずかったということなのです。もし社内営業もできないのであれば、さらに難しいはずの新規事業における営業もうまくいかないでしょう。

●社内起業の成否は「社内営業」で9割決まる

 私も、日興證券時代に、社内営業の大切さを思い知りました。伝統的な大企業で新規事業に取り組む時には、エネルギーの7割、場合によっては9割を社内営業に使うこともあるのです。そこでへこたれたり、エネルギーを使い果たしてはなりません。
 まずは、直属の上司、同僚、部下の理解が不可欠です。しかし、2対6対2の原則によれば、理解ある上司に恵まれる確率はせいぜい2割です。私は、新規事業担当ということで、直属の上司には恵まれましたが、部門長は保守的な人が多かったのです。 
 例えば、ある支店で成績を挙げられて「The 証券会社の支店長」という考えと営業スタイルをお持ちだった亀村明さん(後に執行役員)が、営業開発部長として着任された時、いきなり私は「目の上のたんこぶ」のような状態になりました。
 AIを使った投資相談という怪しい新規事業を進めようとしていただけでなく、私が定時に自転車でやって来て定時に帰るような異質な若造だったからです。聞けば、あの若造は、ベンチャーあがりで営業経験すらない!とわかれば頭に来ます。私は、経営者の息子として、早く来ても新聞を読んでいるだけ、ダラダラ仕事をして残業代を稼ぐだけの仕事ぶりが嫌いだったから、そうしていたのですが...今になってみれば、きっと扱いづらい社員だったでしょう。当然ながら、亀村さんと私の間に見えない火花が飛び散って、部長の顔を思い出すと、顔がヒクヒクするほどのストレスを抱えていました。

●「転機」を活かして「好機」に変える

 しかし、ある日、転機はやってきました。同部が主催する金融機関トップ向けセミナーでの社長のスピーチ原稿を書く仕事が、突然舞い込んだのです。亀村さんは、誰に頼むか迷ったあげく、私に白羽の矢を立てて下さいました。締めきりは、なんと明日です。この仕事に私は燃えました。その日は、ひとりオフィスに残って、ほぼ徹夜状態で原稿を仕上げました。そして、この原稿を社長が気に入ってくださったのです。 
 変な社員でも「やる時はやる」という心意気をお見せできた瞬間でした。それ以来、亀村さんは、私をかわいがってくださり、退社後にも年賀状などをくださるのです。もちろん、部内の私を見る目も変わったので、仕事がやりやすくなりました。
 さて、直属の上司や部下の理解が得られたら、今度は、会社のオピニオンリーダーやキーパーソンを探して、味方になってもらわなければなりません。大企業の中でも、会社の長期的な戦略を決められるオピニオンリーダーや、それを意思決定するキーパーソンは、ごくわずかです。社内の重要人物を、見つけ出すには、上司の情報力とネットワークが大切です。重要人物に会うために、誰からお願いして、どうやって会うかで結果が変わってくるからです。証券会社であれば、ある支店や本社部門時代に一緒に活躍したことや、仲人をした・された等という公使共々の人間関係を知ることが重要でした。同じ社内とは言え、一歩間違えば敵同士。仲のよい信頼できる人から話してもらい、一緒に会ってもらうことが、社内営業では成否に関わってくるのです。さらに、重要人物が会いたくなる社外の著名人=新規事業の協力者=に同席してもらうと良いでしょう。新規事業の重要性を、直接語ってもらえば一石二鳥です。

●根回しは「After Youの精神」「事前準備」が重要

 社内の重要人物の理解が得られたら、いよいよ根回しです。面倒で嫌だと思う人も多いかもしれませんが、根回しこそ、社内営業で一番大切なプロセスなのです。
 根回しで大切なのは、一般の営業と同様に「After Youの精神」「事前準備」です。
 新規事業の関係部門の部長の願いは何か、想像力を働かせて、その願いを叶える提案をしなければなりません。多くの場合、大企業の部長は、役員を目前にして「失敗をしたくない=リスクは嫌だ」と考えています。しかし、リスクや面倒がなければ「手柄は欲しい=新規事業に関わりたい」とも考えているはずです。
 
●「完璧」な企画書はダメ?

 その本音を理解しつつ、最後は、「私自身が、そして自分の部署とキーパーソンが責任を取る」と真剣に語ることが、信頼を勝ちうるプレゼンの見せ所になるでしょう。
 しかし、完璧な企画書を作って持参してはなりません。部長=企画にケチをつける人=できない理由を考える人=であると場合も少なくないからです。完璧な企画書より、ケチをつける穴が見つかりやすい企画書の方が、コミュニケーションが弾みます
「絶対に譲れない核心部」を外して、「誰でも見つかる改善案」が思い浮かぶ企画書を作ることが、社内営業における理想なのです。時には、「フォントが嫌い」「字が小さい」「四角のカドが丸い方がいい」などと枝葉末節を突っ込まれることもあるでしょう。そこで怒ってはいけません。「字を大きくすれば賛成」というメッセージなのです。
 
 さて、ここまでくれば会議は簡単です。企画書をプレゼンする時は、「この案は◎◎部長のアイディアをいただいて□□といたしました」と、根回しの時にいただいた各部門長の意見を盛り込むことが大切です。あたかも、共同出願の企画として発表することで賛成したくなります。そして、最後は、「みなさまの素晴らしいアイディアを活かして、私が責任をもってやりとげます」と熱く語りましょう。その上で、社内のオピニオンリーダーから、この新規事業の重要性を補足してもらうのです。会議の最後には、キーパーソンに「全面的にバックアップする」と締めてもらえば完璧です。
 まるで歌舞伎のような様式美=これぞ社内起業家のデビューに欠かせない儀式です。

A.社内営業の戦略と戦術を練れば、道は開ける

ボードメンバープロフィール

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くめ のぶゆき氏

久米信行(くめ・のぶゆき)

1963年東京下町生まれのTシャツメーカー三代目。

慶應義塾大学経済学部卒業後、87年、イマジニア株式会社に入社。ファミコンゲームソフトのゲームデザイナー兼飛び込み営業を担当する。
88年に日興證券株式会社に転職し、資金運用・相続診断システムの企画開発、ファイナンシャル・プランナー研修で活躍。
94年に家業である久米繊維工業株式会社の代表取締役に就任。

日本でこそ創りえるTシャツを目指し、グリーン電力とオーガニックコットンを生かす環境品質と、
クリエイターとJapanCoolを共創する文化品質を追求。
個人的なTシャツコレクションも数千枚に及び、全国のTシャツアート展・ワークショップ・エコイベントを支援する。

明治大学商学部「ベンチャービジネス論/起業プランニング論」講師。NPO法人CANPANセンター理事。東京商工会議所墨田支部IT分科会長。社団法人墨田区観光協会理事。

著書に、10万部を突破した『考えすぎて動けない人のための「すぐやる!」技術』(日本実業出版社)、
Amazonでビジネス3部門第1位を獲得した『メール道』と『ブログ道』(ともにNTT出版)がある。
連載は、「経営者会報」「日経パソコン」「日経ネットマーケティング」「日経トップリーダー」ほか多数。

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