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2013年06月11日(火)更新

【新著連載】Q24.社内の理解が得られない

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q24.社内の理解が得られない

→A.社内営業の戦略と戦術を練れば、道は開ける


 社内起業家は、社内営業が起業の第一歩であり、エネルギーの大半を使うことになると心得ています。もし、社内の理解が得られないとすれば、それは社内営業の戦略や戦術がまずかったということなのです。もし社内営業もできないのであれば、さらに難しいはずの新規事業における営業もうまくいかないでしょう。

●社内起業の成否は「社内営業」で9割決まる

 私も、日興證券時代に、社内営業の大切さを思い知りました。伝統的な大企業で新規事業に取り組む時には、エネルギーの7割、場合によっては9割を社内営業に使うこともあるのです。そこでへこたれたり、エネルギーを使い果たしてはなりません。
 まずは、直属の上司、同僚、部下の理解が不可欠です。しかし、2対6対2の原則によれば、理解ある上司に恵まれる確率はせいぜい2割です。私は、新規事業担当ということで、直属の上司には恵まれましたが、部門長は保守的な人が多かったのです。 
 例えば、ある支店で成績を挙げられて「The 証券会社の支店長」という考えと営業スタイルをお持ちだった亀村明さん(後に執行役員)が、営業開発部長として着任された時、いきなり私は「目の上のたんこぶ」のような状態になりました。
 AIを使った投資相談という怪しい新規事業を進めようとしていただけでなく、私が定時に自転車でやって来て定時に帰るような異質な若造だったからです。聞けば、あの若造は、ベンチャーあがりで営業経験すらない!とわかれば頭に来ます。私は、経営者の息子として、早く来ても新聞を読んでいるだけ、ダラダラ仕事をして残業代を稼ぐだけの仕事ぶりが嫌いだったから、そうしていたのですが...今になってみれば、きっと扱いづらい社員だったでしょう。当然ながら、亀村さんと私の間に見えない火花が飛び散って、部長の顔を思い出すと、顔がヒクヒクするほどのストレスを抱えていました。

●「転機」を活かして「好機」に変える

 しかし、ある日、転機はやってきました。同部が主催する金融機関トップ向けセミナーでの社長のスピーチ原稿を書く仕事が、突然舞い込んだのです。亀村さんは、誰に頼むか迷ったあげく、私に白羽の矢を立てて下さいました。締めきりは、なんと明日です。この仕事に私は燃えました。その日は、ひとりオフィスに残って、ほぼ徹夜状態で原稿を仕上げました。そして、この原稿を社長が気に入ってくださったのです。 
 変な社員でも「やる時はやる」という心意気をお見せできた瞬間でした。それ以来、亀村さんは、私をかわいがってくださり、退社後にも年賀状などをくださるのです。もちろん、部内の私を見る目も変わったので、仕事がやりやすくなりました。
 さて、直属の上司や部下の理解が得られたら、今度は、会社のオピニオンリーダーやキーパーソンを探して、味方になってもらわなければなりません。大企業の中でも、会社の長期的な戦略を決められるオピニオンリーダーや、それを意思決定するキーパーソンは、ごくわずかです。社内の重要人物を、見つけ出すには、上司の情報力とネットワークが大切です。重要人物に会うために、誰からお願いして、どうやって会うかで結果が変わってくるからです。証券会社であれば、ある支店や本社部門時代に一緒に活躍したことや、仲人をした・された等という公使共々の人間関係を知ることが重要でした。同じ社内とは言え、一歩間違えば敵同士。仲のよい信頼できる人から話してもらい、一緒に会ってもらうことが、社内営業では成否に関わってくるのです。さらに、重要人物が会いたくなる社外の著名人=新規事業の協力者=に同席してもらうと良いでしょう。新規事業の重要性を、直接語ってもらえば一石二鳥です。

●根回しは「After Youの精神」「事前準備」が重要

 社内の重要人物の理解が得られたら、いよいよ根回しです。面倒で嫌だと思う人も多いかもしれませんが、根回しこそ、社内営業で一番大切なプロセスなのです。
 根回しで大切なのは、一般の営業と同様に「After Youの精神」「事前準備」です。
 新規事業の関係部門の部長の願いは何か、想像力を働かせて、その願いを叶える提案をしなければなりません。多くの場合、大企業の部長は、役員を目前にして「失敗をしたくない=リスクは嫌だ」と考えています。しかし、リスクや面倒がなければ「手柄は欲しい=新規事業に関わりたい」とも考えているはずです。
 
●「完璧」な企画書はダメ?

 その本音を理解しつつ、最後は、「私自身が、そして自分の部署とキーパーソンが責任を取る」と真剣に語ることが、信頼を勝ちうるプレゼンの見せ所になるでしょう。
 しかし、完璧な企画書を作って持参してはなりません。部長=企画にケチをつける人=できない理由を考える人=であると場合も少なくないからです。完璧な企画書より、ケチをつける穴が見つかりやすい企画書の方が、コミュニケーションが弾みます
「絶対に譲れない核心部」を外して、「誰でも見つかる改善案」が思い浮かぶ企画書を作ることが、社内営業における理想なのです。時には、「フォントが嫌い」「字が小さい」「四角のカドが丸い方がいい」などと枝葉末節を突っ込まれることもあるでしょう。そこで怒ってはいけません。「字を大きくすれば賛成」というメッセージなのです。
 
 さて、ここまでくれば会議は簡単です。企画書をプレゼンする時は、「この案は◎◎部長のアイディアをいただいて□□といたしました」と、根回しの時にいただいた各部門長の意見を盛り込むことが大切です。あたかも、共同出願の企画として発表することで賛成したくなります。そして、最後は、「みなさまの素晴らしいアイディアを活かして、私が責任をもってやりとげます」と熱く語りましょう。その上で、社内のオピニオンリーダーから、この新規事業の重要性を補足してもらうのです。会議の最後には、キーパーソンに「全面的にバックアップする」と締めてもらえば完璧です。
 まるで歌舞伎のような様式美=これぞ社内起業家のデビューに欠かせない儀式です。

A.社内営業の戦略と戦術を練れば、道は開ける

2013年06月10日(月)更新

【新著連載】Q23.自分ひとりでがんばってもムダですか?

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q23. 自分ひとりでがんばってもムダですか?

A.よそ者・わか者・ばか者の活躍が変化を起こす

 起業家は、自分ひとりでは何もできないことを知っています。同時に、自分ひとりのがんばりが、大きなキッカケと貴重なご縁を呼び込むことも良く知っています。
 ひとりでがんばる時のキーワードは「よそ者・わか者・ばか者」感覚です。この言葉を編み出したのは、西友での新規事業の体験をもとに、社会起業家として活躍する先輩、柳田公市さんです。柳田さんは、保守的な組織を内側から改革するのは難しいので「よそ者・わか者・ばか者」の活躍が大切だと看破されたのです。
 私も、若くして、地元墨田区の街おこしに関わることができました。柳田さんの至言を常に意識して、孤軍奮闘を続けてきたからこそ、今の私と生き甲斐があるのです。

●インターネットから「街おこし」

 私の「よそ者」感覚は、その経歴によるところが大きいでしょう。墨田区で生まれ育った三代目経営者ですが、20代の私は、ファミコンゲームソフトメーカーや、証券会社で、ITやソフトの仕事をしていて、地元の活動など何もしていませんでした。
 ところが、街おこしに関わるご縁は、予想もしないところから訪れました。私のネット仲間で、建築関係の教育や出版をしていた鈴木明先生が、菊川工業の経営者・宇津野和俊さんを引き連れて、弊社に見学にいらっしゃったのです。宇津野さんは、鈴木先生の協力で世界の名建築ガイドを出版した文化人経営者で、現在は世界中のアップルストアの金属建材を提供しています。私は、意気に感じて、中小企業にとってインターネットがいかに役立つツールであるか熱弁をふるったのです。
 すると後日、思いがけないことに、宇津野さんから、東京商工会議所墨田支部の役員になってほしいと請われたのです。当初は、情報サービス分科会の副会長を務め、ほどなくして新設されたIT分科会長を拝命しました。IT業界とは無縁のTシャツメーカーの経営者が、まさに「よそ者」として招かれたのです。なにせ分科会には、NTTや地元ケーブルテレビの幹部が、メンバーとして名前を連ねています。文系出身でITの専門教育を受けたことがない私ですから、もちろんビビリました。
 しかし、私は、どうすれば中小企業がお金をかけずにインターネットを活用できるかを日々考え実践していましたし、同じように使いこなせる企業が増えることが、墨田区全体を盛り上げることを理解していました。そこで地元経営者向けに実践的なセミナーを重ねて十年。墨田区では、区内の要となる経営者、後継者から、自治体、団体幹部まで、みなさんがソーシャルメディアを使いこなすところまで進化したのです。

●40歳そこそこでもまだまだ「わか者」

 そして、私は「わか者」として、墨田区を代表する経営者が十数名集まる役員会に毎月出席することになりました。何しろ、出席する先輩の多くは70代~60代、若くても50代でした。通常ならば、40歳そこそこの私は、借りてきたネコのように静かにしているべきでしょう。しかし、東商墨田支部会長の高橋久雄さんは、「よそ者・わか者・ばか者」の重要性を心から理解していました。さらに、私が思い切った発言をするほど、他の先輩役員も喜んで賛同してくださることもわかりました。
 例えば、東京スカイツリーの構想が持ち上がった時に、墨田区長の山崎昇さんが、役員会に参加されました。その時に、「すみだ北斎美術館」と「メディアアート」についてお話をされたのです。その時、私は、世界中の美術館を見て回った「バカモノ」の一人として生意気な発言をしました。「中途半端なメディアアートは一度見ただけで飽きてしまう。それより北斎賞を作って、受賞作で地域ブランド商品を作り、イベントを開いた方が、地元が繁盛する」この私見に、区長も先輩方も賛成してくれました。
 それがきっかけとなって、私は、すみだ北斎美術館の名称やロゴを決める委員や、さらに、新設された墨田区観光協会の発起人理事に選ばれました。年齢は「わか者」経歴はアートや観光について「よそ者」で、私はふさわしくないかもしれません。しかし、私は、墨田区に異常な愛情を持つ「ばか者」です。これまでも「勝手に観光協会」として、久米繊維のお客様に、墨田区の文化の深さや、路地裏の面白さを案内し続けてきました。それが実を結んで、大きな仕事ができるようになったのです。

A.よそ者・わか者・ばか者の活躍が変化を起こす

2013年06月07日(金)更新

【新著連載】Q22. 困ったときに人の力を借りるのが苦手です

Q. 困ったときに人の力を借りるのが苦手です

→A.「Know HOW」よりも「Know WHO」が成功のカギ

 起業家は、自分の力だけで解決できることなどないことを知っています。そして、取り組む事業が新しければ新しいほど、困難であればあるほど、自分よりも知恵も実力もある人の力を結集できるかが「成功のカギ」であると心得ています。
 しかし、多くの人は、困ったときに人の力を借りることをためらいます。
 「こんなこともできないのかと笑われそう」というちっぽけなプライド、「自分の仕事は自分でやれと怒られそう」という恐怖心、「優秀な人は忙しくて手伝ってくれっこない」という決めつけやあきらめなどが、邪魔をするのでしょう。
 結局のところ、頼みやすい同僚や部下にお願いするか、下請け業者に丸投げしてしまうなど、安易でストレスのない方法に走るかもしれません。

●「自分のスキル」より「優秀な人材」を見つける

 私が日興證券時代に仕えた上司、笠榮一さん(故人)は、営業の天才としてお客様を魅了するだけではなく、社内のスペシャリストをまきこむ天才でもありました。
 笠さんは、高校を卒業後に日興證券に入社され、まずは、個人向け営業として頭角を現します。そして、トヨタの法人担当となって信頼を勝ち得て、空前の営業成績をあげられました。驚くことに、晩年は、当時トヨタの財務担当だった方に請われて、新設されたトヨタの関連会社の顧問にまでなるのです。
 高校卒業のキャリアしかなかった笠さんが、トヨタ銀行と称される金融強者を相手に信頼を勝ち得ることができた秘密は、お客様個人の心をつかめただけではありませんでした。社内外の達人を巻き込んで、積極的に協力してもらえたからなのです。
 まず、笠さんは、お客様の真のニーズを感じ取る力に長けていました。同時に、自分自身に解決するスキル(Know How)がない場合が多いこともわかっていました。そのかわり、お客様の問題を解決するのに、もっともふさわしい優秀な人材が誰か(Know Who)を調べて、知り尽くしていたのです。そして、笠さんに請われると、スペシャリストは、みんな喜んで全力で仕事を手伝ったのです。
 それはいったいなぜでしょうか? もちろん、それが仕事ですし、トヨタが会社にとって大切なお客様だったこともあるでしょう。しかし、それだけではなかったのです。
 笠さんは、社外のお客様には、会社の経費で接待をしましたが、社内の優秀な若者たちには、自腹でおごって接待!をしていました。笠さんは、社内での地位と、実際のプロのスキルとが連動していないと理解していました。株の売り買いだけだった時代から、高度な数学=金融工学を必要とする時代に変わっていたので、むしろ若いスタッフの中に知恵とスキルがある人がいると知っていたのです。異部門なのに、いつもかわいがってくださる先輩から、ある日こう言われたらどうでしょう。「トヨタから○○に一番詳しい人を連れてきてくれと言われたので、○○君、一緒に行ってくれるか?」、そして先方の偉い方の前で、「日興證券で一番○○に詳しい○○君をお連れしました」と言われたら、みなさんならどう感じますか?

●社内で一番○○に詳しい人を探して教えを

 私も、証券業界の知識はないかわりに、ファイナンシャルプランニングやITの知識があったこともあり、何度もおごっていただきました。そして、私にとってのお客様=全国の支店長や課長の前で、やはり過分な紹介をいただいたのです。「笠さんのためなら、がんばって一番良い仕事をしなくては」と思わないはずがありません。
 これは、もちろん年下のみなさんでも応用できる方法です。社内で一番○○に詳しい人を探し出して、ランチをご一緒させてもらってください。懸命に教えをいただき、自分のやりたい事業について熱く語れば、きっとかわいがってくださるはずです。一緒に飲みに誘ってくださるかもしれません。そして、ここぞという時に言うのです。「私が今挑戦していることで壁にぶつかってしまいました。社内で一番○○に詳しい○○先輩のお知恵とお力をぜひお借りしたいのです。」
 きっと「かわいいやっちゃ」と大きな力を貸してくださることでしょう。
 ご恩返しは、自分が成長して、いつか大きな実績をあげることです。その時、心からのお礼を伝えましょう。いつか自分が教わったことを後輩たちに引き継ぎましょう。

A.「Know HOW」よりも「Know WHO」が成功のカギ

2013年06月04日(火)更新

【新著連載】Q21. 新しいことをやりたいんです

Q. 新しいことをやりたいんです 

→A.危機感を持った先進的リーダーに提案しよう

 起業家の大好物は、新しいこと=簡単にはクリアできない困難なこと=スキル向上や師匠とのご縁が期待できること=達成時に大きな喜びが待っていることです。
 実は、大きくて伝統的な組織ほど、イノベーションが必要とされているのですが、逆に保守的になって新しいことを排除する風潮が見られます。だからといって諦めてはいけません。保守的な組織の方がトップに危機意識が強い場合が多く、新規事業のために新しい組織を作り、若い人も思い切って登用して打開しようとするからです。もしも、所属している組織では理解が得られなくとも、急増しているNPOなど外部の組織で、新しいことを実現するチャンスに恵まれることもあるのです。

●帝国データバンクのようなNPO版データベースを

 例えば、私がライフワークとしている日本最大の公益ネットワーク、日本財団の「CANPAN」が設立された時のことをご紹介しましょう。
 日本財団は、競艇の収益金の一部を、国内外の公的な事業の助成に活かす団体です。歴史でも規模でも日本を代表する組織ですが、会長の笹川陽平さんは、時代の潮流に合わせて「民が民を助ける新しい仕組み」が必要だと考えていました。政治家や役人に頼らず、心ある人が社会起業家となって公的な事業を興す。心ある企業や個人が、それを物心両面で支えていく。そんな新しい社会を構想していたのです。そんな矢先、インターネットが出現して、その流れを加速するのではないかと直観されたのです。
 この戦略的な新規事業を、当時財団の企画部長だった寺内昇さんが任されました。寺内さんとは、ソフト化経済センターのイベントで出会い、私の講演やネットでの発言や、メール道などの著作に注目してくださいました。そして、構想中のNPO向けデータベースやブログサービスについて助言を求められたのです。
 寺内さんの熱いご説明で、私は、すぐにこの事業の将来性や社会性を理解することができました。幸か不幸か、私は日本財団の職員でもNPO関係者でもなかったので、利害関係や先入観にとらわれない客観的な視点で、あるべき姿を提案いたしました。
 例えば、NPOの中には、立派な活動をしている団体もあれば、形骸化した団体もあります。さらには反社会勢力と繋がっている団体さえあります。ですから、個人も法人も、どこを信頼して応援していいかわからないのです。そこで、企業の信用情報を簡単にネットで調べられる「帝国データバンク」のような仕組みが必要だと提案しました。

●先進的なリーダーは新しい提案に耳を傾けてくれる

 また、NPO向けのブログでは、これまでの無料ブログサービスの常識を覆して、
1)実名を公開すること 
2)知的所有権は発信元の団体と個人に帰属すること 
3)収入を得るためのアフィリエイトリンクも自由にすること 
4)日本財団など公共広告以外は入れないこと 
5)寄付金や会費集めにも使えること 
 などを提言しました。
 驚くことに、私の提案の多くは採用されました。笹川会長も寺内部長も、部外者の若造=私の意見に耳を傾けてくれたのです。さらに、この新ネットワークを運営するNPO法人CANPANセンターの理事にまで、私を抜擢してくださいました。こうして、私は、日本で初めての公的ネットワークの設立に参画することができたのです。
 それだけではありません。笹川会長は、拙著『ブログ道』も読んでくださり、自らブログを開設しました。NPOのリーダーが、現場でどんな活動をどんな想いで続けているか、自ら率先垂範で発信したのです。たとえ炎上しようとも、決して軸をぶらさず、時には赤裸々に、時にはユーモアを交えて、毎日ブログを書き続けたのです。
 それをお手本に、全国のNPOの先進的なリーダーたちも、現場の生き生きとした情報を発信し始めました。そして、大きな支援を集める成功事例も。次々に生まれました。例えば、第一回のCANPANブログ大賞を受賞したチャイルドケモハウスは、「夢の病院を作ろう」とCANPANを通じて呼びかけ、ついに夢を実現させました。
 「新しい酒は新しい革袋に入れよ」という諺の通り、改革を新しい組織や人財で行なおうとしているリーダーは必ずいます。この激動期には、自分が属する組織でも、ご縁のある身近な組織にも、新しいリーダーの出現が求められています。そんな潮流に乗って、新しいリーダーに新しい提案をして、若い知恵と力を存分に発揮しましょう

A.危機感を持った先進的リーダーに提案しよう

2013年06月03日(月)更新

【新著連載】Q20.周りが消極的です

Q20.周りが消極的です

→A.笑われても動いていれば理解者は必ず現れる

 総じて、日本の会社組織は保守的です。特に、企業規模が大きいほど、業績が安定しているほど、現状に安住する社員が増えてきます。いざ「前向きなリスク」をとろうとしても、組織のルールは厳しく、がんじがらめです。上司も、出世に響くような減点を恐れて、ハイリスクハイリターンの斬新な提案など快く思わないでしょう。
 しかし嘆いてばかりいてもしかたありません。「新しいことは誰もやりたがらない」のが普通だと心得て、「理解者ゼロからのスタート」が当たり前だと考えると気楽です。

●斬新な提案ほど、周りの反応も消極的になる

 私の人生のスタートは、当時ファミコンゲームソフトを企画開発していたイマジニアというベンチャー企業でした。第一次のブームが去る中で、神蔵孝之社長は、株式評論家の松本亨先生と出会い「株式必勝学というゲーム」を作ろうということになりました。この新企画は、社内でも「社長の気まぐれ」と冷ややかに受け止められていました。だからこそ、昼は営業をしている私が、夜には、たった4人の株式開発ゲームに加われたのです。
 そして、ある程度ゲームが出来たところで、営業に出かけるのですが「子供が株式ゲームなんてやりっこない」と、ほとんどの人が相手にもしてくれません。10人に話せば8人か9人に笑われるか無視されるのです。しかしマスコミが賛否両論で取り上げてくれたこともあり、株式ゲームに見事にヒットして品切れ状態になりました。嘲笑したお店からも「商品を回してくれ」と懇願されたのです。
 このように、たとえベンチャー企業の創業者であっても、斬新な提案であればあるほど、周りの反応は消極的になるものです。ですから、心配せずとも、有意義な新提案であれば、同僚や上司の理解がなくとも、経営者や次世代のリーダーは、そして見る目のあるお客樣やマスコミは注目してくれるものなのです。

●社外の頭脳や勇気を借りて組織の壁を突破

 また、組織の壁を突破するには、社外の頭脳や勇気を借りることも重要です。社内では誰もが尻込みしたリスキーなプロジェクトも、社外の異業種勉強会の師匠や仲間たちの眼には、チャンスに満ちたものに見えるかもしれません(逆に、社内では評価された提案も、社外の達人に見せるとリスクだらけだったりします)。異業種の先輩経営者も、同じように組織の抵抗にあったはずです。リスクを突破した先輩たちから、社内の説得法も含めた実践的な助言や提案をいただけるでしょう。
 例えば、ゲーム会社の後、転職した日興證券では、ファイナンシャルプランナーを育てて、新しい営業スタイルを創造する仕事を担当しました。バブル全盛期ですから、社内も社外も「株を買えば儲かる」と浮かれていた時代です。当然、聴く耳を持たない人ばかりで、落ち込むばかりでした。しかし、社外のファイナンシャルプランナー養成講座で知り合った講師や他の金融機関の受講生と交流して世界が変わりました。これからは間違いなくファイナンシャルプランナーが重要になると確信できたのです。
 また、今の時代は、インターネットのコミュニティを有効活用すれば、お客様と直接つながることができます。興味のあるジャンルで仲間を作り、新しいアイディアについてさりげなく話して感触をつかむことができるのです。さらにオフ会などのイベントに参加して、お客様と直接話して、自分のアイディアの正しさを検証しましょう。

●社内のオピニオンリーダーとキーパーソンを探す

 こうして社外で知恵と知恵を手に入れたら、再び社内の説得に取りかかりましょう。
 ここで大切なのは、オピニオンリーダーとキーパーソン探しです。大組織でも、実は、重要な戦略を立案し意思決定をする人は、ごく限られた一部の人です。戦略家=オピニオンリーダーは、社長室、経営企画などの企画セクションで、部長というより次長、課長クラスにいる場合が多いです。キーパーソンは、関係部署の部長クラスということが多いでしょう。誰がオピニオンリーダー、キーパーソンかは、上司や同僚はもちろん、社歴の長い女子社員に聞いてみれば、さほど苦労せずともわかります。
 重要人物が判ったら、いきなりプレゼンをするより、ご意見うかがいにでかけましょう。まずは自分自身を気に入ってもらうのです。企画を通すより、尊敬する先輩に助言をいただいて参加してもらうことが大切です。自分の提案ではなく、キーパーソンたちの意見を集約した提案にすることで、理解者を増やしながら前に進みましょう。

A.笑われて動いていれば理解者は必ず現れる

2013年05月28日(火)更新

【新著連載】Q19.仮説はどうやって立てればいいのですか?

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q.仮説はどうやって立てればいいのですか?

→A.原則として外れることを前提に「計画的失敗」のち「修正」

 新しい事業や商品を生み出す起業家は、アイディアあふれる仮説構築の達人だと思われがちです。しかし仮説立案には「試行錯誤の繰返し=計画的失敗」が不可避です。

 1.不満や不便を感じて課題を見つけるための行動力
 2.課題を解決できる仮説を考えるための情報収集力
 3.課題をいったん忘れ、体験や出会いを重ねて「ひらめき」を待つ熟成力
 4.仮説を実行して失敗を重ねては、検証を繰り返す試行錯誤力

 なぜなら、「仮説は原則として外れるもの」で「思い込みの強い仮説ほど外れがち」だからです。試行錯誤を繰り返し、さまざまな失敗体験と、思いがけない出会いを通じて、仮説は修正され、磨き上げられ、やがて成功に近づいていくのです。
 例えば、私の著書の中で、最も多くの方に愛読されているロングセラー『「すぐやる!」技術(2013年6月現在、27刷20万部)」が誕生したプロセスを見れば、「いかに安易な自分の仮説があたらないか」「お客様やパートナーの助力が大切か」がよくわかります。

●明大での講義をもとに「起業論のテキスト」出版を目論んだものの…

 ことの始まりは、明治大学商学部教授の村田潔先生から、クリエイティブ・ビジネスコースの講師を拝命したことです。ベンチャービジネス論と起業プランニング論を教えられる経営者を探しているとのことで、二つ返事でお引き受けをいたしました。村田先生が語る社会的な意義に共鳴したからです。同時に、「明治大学なら、中小企業経営者のご子息が多いので、志も商売の基礎知識も兼ね備えているはず。教育効果が上がるはず」との仮説を抱いたからです。そして、当時からおつきあいのあった編集者で、日本実業出版社にお勤めだった佐藤聖一さんにも講義に参加していただきました。この講義をもとに「起業論のテキスト」を出版しようと目論んだからです。
 ところが、この仮説は大きく外れました。最初の講義に参加した約100名の学生のうち、「経営者のご子息」は、わずか数名しかいなかったのです。その上、起業論を志しながら、「あいさつもスピーチも苦手」「簿記の資格もない」「ドラッカーや松下幸之助の著作も読んでいない」という学生が大半でした。さらに「必ずしも起業を志しているわけでも、経営者になりたいわけでもない」と言うのです。何より哀しかったのは「好きなモノやコトを一年間ブログでお勧めする」という簡単な課題に対し、「好きなモノがない」「一年間も書くネタがない」と脱落する学生が続出したことです。
 ということで、私の仮説は大きく外れました。当然ながら、講義の内容も、出版予定だった本の中身も、大幅な変更を余儀なくされました。しかし、手を抜くわけにはいきません。受講生たちの声に耳を傾け「何が望まれ、何が必要とされているか」を感じ取りながら、等身大の講義を続けていきました。最後まで完走してくれた学生は、わずか10名あまりに減ってしまいましたが、なんとか満足のいく講義ができました。

●イマドキの若者の現実を目にした編集者からの企画提案

 そして一年を終えたところで、ずっと講義に参加してくださった編集者の佐藤さんが、なんと書籍の企画案をもってきてくれました。それは、若者たちが一歩前に踏み出しすための自己啓発本の原案でした。講義中、私がアドリブで学生たちに叱咤激励する言葉に感動してくれた佐藤さんが、その内容を箇条書きにして章立てしてくれたのです。それは、私の思い込み仮説による企画「志の高い起業家志望の若者向けの実業テキスト」ではありませんでした。イマドキの若者の現実を目にした佐藤さんの実感にもとづく企画『考えすぎて動けない人のための「すぐやる!」技術』だったのです。
 もともと現場主義の私は、自己啓発本が好きではなく、書く気もありませんでした。しかし、1年間の講義で目の当たりした現実と、佐藤さんの真剣なまなざしに、私は動かされました。さっそく佐藤さんの名リードのもと、ブログを使った公開執筆を始めました。学生たちにネット連載の見本を見せたかったのと、同じやり方で旧著『メール道』がアマゾンの販売ランキング総合2位になったのを思い出したからです。
 いざ出版されると、予想を超えることが次々に起こりました。学生や若者向けの本のつもりが、経営者や管理職、さらには理系やIT系のエンジニアの方々にも愛読されたのです。「仮説は外れる。現実に即して修正を続けよ」と現実から学んだのです。

A.原則として外れることを前提に「計画的失敗」のち「修正」

【バックナンバー】
Q08.若くて経験もなくて不安です
Q09.失敗するのが怖い
Q10.部下がいないうちは大きなことに挑戦できない?
Q11.自分の力不足をさらけ出すのが怖い
Q12.人から笑われるのが怖いんです
Q13.「とるべきリスク」とはどんなものですか? 
Q14.もっと大きな仕事をしたい
Q15.未来を見通す目がほしい
Q16.すぐに現状に満足してしまう
Q17.付き合う人の幅を広げたい
Q18.人と違った情報が得たい

2013年05月27日(月)更新

【新著連載】Q18.人と違った情報が得たい

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q.人と違った情報が得たい

→A.パラボラ力×ズーム力を最大化する

 起業家と小勤め人の大きな違いは、新しく役に立つ情報をキャッチする「パラボラ力」と、それをビジネスや人生に活かせるまで観察し続ける「ズーム力」でしょう。社内情報や、マスメディアに頼っているだけでは、人と違った情報をキャッチすることはできません。インターネットは有効な手段ではあるものの、それだけでは、事業計画のヒントとなる、現場情報も達人の声も入ってこないのです。

1.師匠を探して勉強会に参加しよう。質問と発言をしよう

 私が最も「人と違った情報」に接することができたのは、社団法人ソフト化経済センターのソフト化賞選考委員会でした。ソフト化経済センターは、日本で最初に「ソフト」の価値を提唱した、わが師 日下公人先生が設立したシンクタンクです。ソフト化賞は、日本の進むべき未来を示す「先端的でソフトな試み」を表彰する賞でした。
 当時、ソフト化経済センターの客員研究員だった私も、幸運にも、その審査委員の一人に選ばれました。そこでは、自分のネットワークの中から、ソフト化賞にふさわしい候補を探し出して推薦するのです。シンクタンクの主任研究員、出版社の編集長、フリーのライター、ベンチャー起業家など、異業種の精鋭が探し出しくる企業や団体は、それぞれ個性的な候補ばかりでした。
 それだけでも、私にとっては大いに勉強になりました。委員のみなさんが、どんなルートで、どんな視点で探し出してくるか、審査委員会で知ることができたからです。
 しかし、日下公人先生は、いつでも「もっとあやしいものを選んでくるように」審査委員に助言するのです。つまり、今の時点で「新しい」「面白い」と感じる程度だと、すぐに古くなってしまう。今はまだ「あやしい」と思えるぐらいで、ちょうど良い。それこそ、10年後、20年後に花開く「新しいソフト」だというのです。
 そこで、もともと「パラボラ力」の高かった審査委員のみなさんは、日下先生のリクエストに応じて、もっと思い切り「あやしい」ものを探し出したのです。それから、10年ほどたって受賞作を振り返ると、たとえば、葉っぱビジネスの「いろどり」にしろ、東京電力の子会社「日本自然エネルギー」にしろ、当時こそあやしく見えたものの、今や、日本が進むべき道を示しているように思えるのです。

2.現場に行って現場の達人と会おう。お客様の気持ちで考えよう

 ソフト化賞の選考委員会で驚いたのは、みなさんが徹底した現場主義者だったことでした。既に、インターネットも普及していましたが、自分の目で確かめたものを中心に推薦していたのです。ジャンルこそ異なれ、全員に共通していたことは、自分の本業を極めながら興味の対象を広げ、面白いと思ったら実際に現場を訪ね、当事者に会っているということでした。どなたも、自分の目で見て、肌で感じたもの以外は、信用しないという信念を持っていたのです。これこそが真のプロ精神でしょう。徹底した現場主義を学んだことで、情報を凝視する「ズーム力」が身に付くのです。
 私は、地元墨田区をはじめ地域おこしのお手伝いをしていますが、まずは、お客様の気持ちで、先入観なしに現地を訪ねることから始めます。そして、ご当地で一番元気な人たちにあって、親しくお話をしながら質問を繰り返します。私にとって重要な情報を聞き出したいからです。それは「現地の人が楽しんでいるのに、多くの人が知らないこと」「私が魅力だと感じてるのに、現地の人が気付いていないこと」です。  
 つまり、起業家に必要な情報とは、現地で見つけた「ギャップ」なのです。

3.生涯役立つ自分だけの教科書=古典からマンガまでを探そう、読み返そう

 ベストセラーの流行書ばかり読んでいても独創的にはなれません。大切なのは、師匠が書いた本と、師匠が勧める教科書です。例えば、日下公人先生の本を十冊以上読んだ人と読んだことがない人では、世界の見え方が変わってくるはずです。そして、日下先生に教わった「ロジャースの普及理論」や「ポケモン」にふれたことで、「ソフト化賞は、なるべくあやしいものから選べ」という言葉の真意も判ってきました。古典から学んだ知恵をもって、徹底した現場主義に徹すれば、人と違う情報が見えてくるのです。

A.パラボラ力×ズーム力を最大化する

【バックナンバー】
Q08.若くて経験もなくて不安です
Q09.失敗するのが怖い
Q10.部下がいないうちは大きなことに挑戦できない?
Q11.自分の力不足をさらけ出すのが怖い
Q12.人から笑われるのが怖いんです
Q13.「とるべきリスク」とはどんなものですか? 
Q14.もっと大きな仕事をしたい
Q15.未来を見通す目がほしい
Q16.すぐに現状に満足してしまう
Q17.付き合う人の幅を広げたい

2013年05月24日(金)更新

【新著連載】Q17.つきあう人の幅を広げたい

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q.つきあう人の幅を広げたい

→A.生涯の師を3人見つける

 その人の「これまでの生き方」と「これからの可能性」は、深くおつきあいしている人たちを見ればわかります。これまでのキャリアを通じ、そこで出会える最高の人たちと公私共に交流している人もいれば、公私を分けてご縁が広がらない人もいます。現在の職場は、決して、ただ給料をもらう場所ではありません。自分のスキルを磨く修行の場であると同時に、将来、もっと大きな夢を実現するための師匠やパートナーを見つける場所なのです。ですから、私の明治大学商学部の講義では、「選ばれる自分になる。生涯の師やパートナーに出会う。認められる。」と毎回唱和するのです。 
 例えば、私が日興證券で働いた20代後半の5年間には、まったく異なる知見と経験を持つ「3人の素晴らしい師匠」に出会うことができました。

●そうそう出会えない達人たちの出会いをくれた師匠

 まず、イマジニア時代の元上司で、私を日興證券に誘ってくださった神戸孝さんは、今や、日本を代表する独立系ファイナンシャル・プランナー(FP)として、マスメディアや講演活動でも大活躍をされています。若輩の私に、相続・診断システムの企画開発という大きなチャンスをくださり、私の人生を切り開いてくれた大恩人です。
 神戸さんは、ベンチャー企業のイマジニアで働く前は、三菱銀行で銀行マンとして活躍されていました。そこで、銀行と証券の両方の知識を持ち、なおかつ、いち早くFPの重要性を理解されていました。ですから、会社の枠を超えて、銀行、証券、保険、不動産、税理士、コンサルタントなどとのネットワークを広げて、様々な勉強会や集まりにも、私をよく連れて行ってくださいました。だからこそ、私は、一つの業態、一つの会社にいたら、どんなに頑張っても出会えない素晴らしい達人たちの生き方や考え方に触れることができたのです。何より、神戸さん独自の、十年先を見据えた柔軟で幅広い発想と、社内外からスペシャリストを集めるネットワーク力が、新しい事業を起こす起業家として求められる「資質」だと体感できました。

●冷静に未来を予見する「あるべき経営者の姿」を教えてくれた師匠

 それから、日興證券でFP事業を企画した、当時 社長室次長、稲葉 喜一さんとの出逢いも、私にとってかけがえのないものです。稲葉さんは、その後、日興アセットマネジメントの常務を務められ、今はネットなどで投資家教育をされています。
 稲葉さんは、株が大好きだった企業経営者のお父様から「どうすれば儲けられるか」というミッションを受けて、日興證券に入社したそうです。東大を卒業後、米国のビジネススクールでも学ばれ、証券会社では一貫して経営企画・営業企画を歴任されていました。まさに日興證券の頭脳として活躍されていた稲葉さんからは、金融ビッグバンやインターネットの普及で、金融機関がどのようにいかに激変するかというヴィジョンを教えていただきました。バブルで誰もが浮かれている中で、冷静に未来を予見する「あるべき経営者の姿」を、稲葉さんから学んだのです。さらに、大きな組織では「面従腹背」で「自己保身」に走る中間管理職が増えるか、それを変えるのが難しいかということも教わりました。何より、経営者となる私に役立ったのは、日本人の常識を超える経営者目線での「金融市場の見方、投資の方法、金融機関との付き合い方」を学べたことです。稲葉さんとご一緒に、「証券会社が教えない危ないネット取引、上手いネット取引」という本を執筆したことも忘れられません。

●「かわいいやっちゃ」と思われるコミュニケーション術の師匠

 それから、同じ部門で支店とのパイプ役を果たされた笠榮一さんからは、営業の極意を学びました。笠さんは、個人営業を皮切りに、トヨタなどの法人営業で驚くべき成績を挙げられ、後に監査法人トーマツの顧問などを歴任されました。
 笠さんからは「営業は会う前に7割が決まる、お客様個人の好きなものごとがわかれば半分終わったも同じ」と教わりました。私が講演で伝える「かわいいやっちゃ」と思われるコミュニケーション術は笠さんから学んだのです。最初にお客様になってくださった方と最晩年まで個人的につきあう「情の深さ」に感動し、時には富士山頂から数百枚の暑中見舞いはがきを出す「遊び心」と「見えない努力」に驚いたのです。
 日興證券で出会った3人の師匠と、家族ぐるみのおつきあいができたことが、私の喜びであり誇りです。起業家になるための大きな財産だと心から感謝しているのです。

A.生涯の師を3人見つける

【バックナンバー】
Q08.若くて経験もなくて不安です
Q09.失敗するのが怖い
Q10.部下がいないうちは大きなことに挑戦できない?
Q11.自分の力不足をさらけ出すのが怖い
Q12.人から笑われるのが怖いんです
Q13.「とるべきリスク」とはどんなものですか?
Q14.もっと大きな仕事をしたい
Q15.未来を見通す目がほしい
Q16.すぐに現状に満足してしまう

2013年05月23日(木)更新

【新著連載】Q16.すぐに現状に満足してしまう

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q.すぐに現状に満足してしまう

→A.「量的な拡大」よりも「質的な変化」を追いかける

 起業家の特長は、現状に満足しないことです。一つ目標を達成したとしても、それに飽き足らずに、もっと高みを目指して、次なる高度な目標が見つかるのです。
 もっと高度な目標といっても、それは、企業を大きくする、会員を増やすといった「量的な拡大」ばかりとは限りません。「量的な拡大」は、時には、行き過ぎた競争や、社会との不調和を招いて、かえって心を貧して、周囲を不幸せにすることも少なくありません。現状に満足しない真に充実した生き方は、「質的な進化」を伴うのです。

●「現状に満足しない生き方の5段階」

 かつて米国の心理学者のアブラハム・マズローが、欲求段階説を唱えました。人間の欲求が、五段階(1生理的欲求 2安全の欲求 3所属と愛の欲求 4承認(尊重)の欲求 5自己実現の欲求)で進化すると唱え、「自己実現の欲求」が最も高次な欲求と定義されました。しかし、私自身のささやかな体験では、「自己実現」よりも、さらに高次な目標が芽生えて、そこに向かってに挑戦したくなります。
 そこで私が体感した「現状に満足しない生き方の五段階」をご案内いたしましょう。
 まず、第一段階は、「贅沢欲求」です。実は、私の場合は、父が事業を成功させながら「贅沢欲求」を満たすプロセスを見ることで、生きる目標が進化しました。昭和10年生まれの父は、戦後の焼け野原、路地裏の自宅兼町工場を祖父から引き継ぎました。大学にも行かず、自分でトラックを運転して工場と取引先を往復しました。だからこそ、日本初のTシャツ専業メーカーして成功すると、次々に欲しかったものを手に入れて行きました。何と言っても、表通りに面した10階建ての自社ビル兼自宅がその象徴でしょう。しかし、あらゆる贅沢をした後、バブル崩壊を経て、父が晩年に語ったのは「物を持つと苦労する。贅沢せずとも幸せになれる」という境地でした。家族とレンタカーで三陸海岸をドライブして、名も無き漁港の防波堤に腰掛け「おにぎりを食べた」のが、一番美味しかったと、死の直前にしみじみ語ったのです。
 「贅沢欲求」=物欲が満たされると、次は「認証欲求」=地位・名誉欲が大切になります。日本ではお金や物を持っているだけでは尊敬されないからです。1995年当時、私は無名の中小企業経営者でした。しかし、日経インターネットアワード、経済産業省「IT経営百選」、東京商工会議所「勇気ある経営大賞」などを受賞し、マスメディアにも取り上げられると、明らかに対応が変わりました。悪い気はしませんが、嬉しいのは最初のうちだけでした。これまでの成果=既に終わった自分を褒められるよりも、これからの挑戦=未来に向けて走る自分を見て欲しいと思うようになるのです。

●真の自己実現は自己満足では得られない

 続いて「自己実現欲求」が首をもたげます。懸命に生きていれば、簡単にほめてくれないどころか、むしろ叱咤激励される「師匠」が見つかります。その師匠の生き方を見ていると、自分の足りない点や目指すべき姿が見えてきます。私は故・林雄二郎先生のように生きたいと憧れています。林先生は、1969年に「情報化社会」という名著で未来を予見し、日本財団やトヨタ財団など日本の社会貢献活動の先達をつとめ、90歳を過ぎても精力的に活躍していました。自分の専門領域を拡げながら、自分の潜在的な可能性を、死ぬまでずっと追求していく生き方に、私は強く惹かれるのです。
 しかし、真の「自己実現」は「自己満足」では得られないことにも気づきます。自分が気づいたこと学んだことを、より多くの人に広く活用して欲しいと願うようになるのです。東京商工会議所のIT推進担当役員や、日本財団CANPANセンターの理事として、インターネット活用の方法を、これまで1万人以上の方々にお伝えしてきました。さらに、明治大学講師、雑誌連載やビジネス書著書として、自分以外の人たちの「自己実現」支援=「他人実現」を達成することが生きがいになってきたのです。
 さらに「未来実現欲求」も、日に日に大きくなります。自分たちの子孫のために、美しい自然環境、地域固有の文化に根ざしたコミュニティ、愛情にあふれた手仕事の伝統などを、どうすれば未来に遺せるか、大きな責任を感じています。誇大妄想だと笑われるでしょうが、これまで培って来たスキルや、達人たちとのネットワークを、「私の死後はるか先に生きる人たち」の幸せに役立てたいと真剣に考えているのです。

A.「量的な拡大」よりも「質的な変化」を追いかける

【バックナンバー】
Q08.若くて経験もなくて不安です
Q09.失敗するのが怖い
Q10.部下がいないうちは大きなことに挑戦できない?
Q11.自分の力不足をさらけ出すのが怖い
Q12.人から笑われるのが怖いんです
Q13.「とるべきリスク」とはどんなものですか?
Q14.もっと大きな仕事をしたい
Q15.未来を見通す目がほしい

2013年05月22日(水)更新

【新著連載】Q15.未来を見通す目がほしい

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q.未来を見通す目がほしい

→A.その時代で一番面白い人が集まる場所へ行く

 若い頃から、とるべきリスク=世のため人のためになり自分を磨くチャンス=が、はっきり見えている人は少ないでしょう。人一倍の熱意こそあっても、未来を見通す目や、世間とわたりあう知見が養われていないからです。
 とるべきリスク=チャンスを見いだすためには、人生を通じて教えを受けたくなるような「師匠」を見つけることが大切です。そして「師匠」の周りに集う、次代を切り開く多様な達人たちと、積極的に交流することから、新しい人生が始まるのです。師匠や仲間と行動を共にしながら一緒に考え、未来を読み解く経験を繰り返すことで、挑戦すべきことが少しずつ見えてきます。そして、時期が来れば、師匠から「その山に登れ」と背中を押されたり、「一緒に登ろう」と誘われることでしょう。

●人生を変える「師」と巡り会えた勉強会

 私も、師との出逢いなくして「今」は無かったはずです。もし縁者から届くメールマガジンで、橘川幸夫さんの名前が目に留まらず、勉強会に参加していなかったら、私の人生は変わっていたでしょう。不思議なことに、橘川幸夫さんが、その勉強会の講師をつとめたのも、私もその勉強会に参加したのも、その一回限りでした。たった一度だけの勉強会で「師」とめぐりあえたのは、まさに運命的ったと思います。
 橘川さんは、学生時代に読んでいたロック雑誌『ロッキング・オン』の創刊メンバーでした。当日、胸を高鳴らせて勉強会場に向かう途中、私は道に迷ってしまいました。そこで、ばったり橘川さんと出くわしたのです。お互いに名乗ってもいないのに、橘川さんが「あちら」と指差したのを今でも忘れません。まさに象徴的な出来事でした。
 その時、初めてお聴きした橘川さんの講演は、自己紹介だけで終わるという型破りのものでした。しかし、この人に付いて行きたいと思わせる何かがありました。名刺交換の際「教えを請いたい」とお伝えすると『企画書』というご著書を読むように言われました。その本を読んだ時の衝撃は、今も忘れられません。これからやりたいこと、やらなければならないことが、すべてその本に書いてあると感じたからです。
 それ以来、橘川さんの事務所や、勉強会、パーティに通うようになりました。そこで出会う方々が皆すごいのです。ひと言で言えば、通常は「接点がまったく無さそう」な熱い老若男女が集まっていました。官僚、経営者、編集長、アーティスト、ミュージシャン、学生、よくわからない人…とにかく、元気で才気あふれる人ばかりです。橘川さん曰く「自分はお金はないけれど、人材グルメ」ということでした。私も、将来は、橘川さんのように、人が自然に集まってくる人生を送ろうと決意したのです。

●「その時代で一番面白い人たちが集まる場所」に身を置く

 そして、橘川さんにご紹介いただいた数々のご縁で、私の人生は大きく開けました。
 例えば、10年以上連載が続いている日経パソコンの「焦点」コラムは、橘川さんに、当時の藤田編集長をご紹介いただいたところから始まりました。ですから、橘川さんに会っていなかったら、コラムニストやビジネス書作家の「私」はいなかったのです。
 憧れの師匠、日下公人先生とのご縁をいただいたのも、橘川さんのご縁なのです。橘川さんのシンクタンクの主任研究員・亀田武嗣さんが、私を日下先生の勉強会に呼んでくださったことが始まりでした。ご著書を愛読していた日下先生から直接教えを受けながら、ソフト化経済センターや社会貢献支援財団で、ご一緒に仕事をさせていただいているなんて未だに信じられません。これも、橘川さんの人財力のおかげです。
 橘川さんの教えの中でも、私に一番大きな影響を与えたものは、常に「その時代で一番面白い人たちが集まる場所」に身を置く生き方です。ロックに始まり、パソコン通信、インターネット、街おこし、地域の食文化、教育に至るまで、橘川さんが興味を持つところには、常に時代の最先端の人たちが集まり、何か新しいことが始まっていったのです。私も、橘川さんにテーマをいただいたり、お手伝いをしているうちに、気がつけば自分の道を歩み始めていました。新しいことに挑戦しながら、橘川さんに近づこうとしているうち、リスクを恐れず前へ前へと進めるようになりました。
 しかし、今、橘川さんにお会いしても、リスクをとりながら、未来を先取りする感性と活力には驚かされるのです。まだまだ追いつけない師がいることが幸せなのです。

A.その時代で一番面白い人が集まる場所へ行く

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Q09.失敗するのが怖い
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ボードメンバープロフィール

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くめ のぶゆき氏

久米信行(くめ・のぶゆき)

1963年東京下町生まれのTシャツメーカー三代目。

慶應義塾大学経済学部卒業後、87年、イマジニア株式会社に入社。ファミコンゲームソフトのゲームデザイナー兼飛び込み営業を担当する。
88年に日興證券株式会社に転職し、資金運用・相続診断システムの企画開発、ファイナンシャル・プランナー研修で活躍。
94年に家業である久米繊維工業株式会社の代表取締役に就任。

日本でこそ創りえるTシャツを目指し、グリーン電力とオーガニックコットンを生かす環境品質と、
クリエイターとJapanCoolを共創する文化品質を追求。
個人的なTシャツコレクションも数千枚に及び、全国のTシャツアート展・ワークショップ・エコイベントを支援する。

明治大学商学部「ベンチャービジネス論/起業プランニング論」講師。NPO法人CANPANセンター理事。東京商工会議所墨田支部IT分科会長。社団法人墨田区観光協会理事。

著書に、10万部を突破した『考えすぎて動けない人のための「すぐやる!」技術』(日本実業出版社)、
Amazonでビジネス3部門第1位を獲得した『メール道』と『ブログ道』(ともにNTT出版)がある。
連載は、「経営者会報」「日経パソコン」「日経ネットマーケティング」「日経トップリーダー」ほか多数。

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