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2013年04月23日(火)更新

【新著連載】Q04.「リスク」と「リターン」を見極めるコツは?

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! 
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Q.「リスク」と「リターン」を見極めるコツは?

→A.「失敗の痛み」と「成功の喜び」を繰り返し体感すること

 自分がとるべき「リスク」と「リターン」の見極め方を学ぶ王道は、たった一つしかありません。それは、実際に「前向きなリスク」を修羅場に立って主人公になることです。そして、若いうちほど手痛い失敗を重ねることです。「頭で覚えるより、体で覚えること」「考えるより、感じること」が大切なのです。

●みんなとプロが良いと言ったときほど「危険なとき」はない
 
 たとえば、近年、日本人が最も大きなリスクにさらされた「バブル崩壊」時のことを思い出してみましょう。よりによって、私は、その当時、バブルのまっただ中、日興證券本社の営業開発部に務めていたのです。亡き父に言わせれば、日興證券での修羅場を通じて得られたものが、私にとって「いちばんの財産」ということになります。
 バブル崩壊=株価の大暴落は、誰もが、日経平均4万円突破を疑わない「一億総楽観」の中で起こりました。有力新聞やビジネス雑誌でも、名だたるアナリストや経済評論家たちが、来年は株価も上昇してもっと良い年になると書き立てていたのです。
 それは証券会社内部でも同じこと、お客様をだましたのではなく、自分で自分をだましたかのように社員まで「株は上がり続ける」と信じていたのです。恥ずかしながら私も上司の勧めで、なんと暴落直前に「日興證券」株を給料天引きの借金で買ってしまいました。そして会社を辞めてから半値以下で売るという憂き目に遭うのです。
 このバブル崩壊の手痛い失敗を味わって以来、「みんなが良い」と言ったとき、特に「識者やプロがそろって良い」と言ったときほど、「危険なとき」はないと、直感的に疑うようになりました。もし、この「リスク感知力」を持っていなかったら、この20年の激動期に金融機関の言いなりになって大きな損失を被り、会社をつぶしていたでしょう。

●危機を回避しながら乗り切る「リスク突破力」

 さらに、リスクを感知した後で、危機を回避しながら乗り切る「リスク突破力」も大切です。大暴落の経験から、識者の意見にも、プロのノウハウの中にも、正解があるとは限らないと私は肝に銘じます。
 たとえば、名門の都市銀行が破綻し、合併を繰り返すとは、誰も思わなかったはずです。こうした想定外の事が重なる時に、教科書などありません。達人の参考意見を集めるにしても、最後は自分の頭で考え、自分で動かねばなりません。そこで、私が家業の久米繊維を引き継いでからは、危ない都市銀行との取引を止め、健全な銀行に絞り込みつつも、一行に頼らないようバランスをとりました。そこまでするかと支店長に呆れられ、時には脅されました。しかし、もしすばやく英断しなければ、私たちまで銀行の経営破綻に巻き込まれていたでしょう。
 こうした危機的な状況で役立ったのは、リスクをとって挑戦し続けてきた先輩経営者たちとの勉強会での交流でした。さらに、10年先を見てリスクのある研究を続けてきたITや環境問題のスペシャリストたちとの学会での勉強も大変重要でした。
「前向きなリスク」をとる達人たちは、たとえ知識や経験に乏しい若輩者でも、挑戦する若者に共感してくれます。そして、素直に耳を傾けて「すぐやる」「やり抜く」若者を応援してくれます。こうした「リスクを乗り切る達人」たちとのありがたいご縁があれば、「リスク突破力」は倍増します。だからこそ、私たちは、インターネットをいちはやく活用し、環境にやさしい商品を開発して、お客様の信頼を得られたのです。

●リスクを乗り越えることが「自分の価値」「人生の意味」

 こうして、若いうちからリスクをとりながら、失敗と成功を繰り返して行くうちに「リスク耐性」が高まっていきます。以前より、リスクをとる時に怖くなくなります。リスクをとった後うまく行かないことがあっても、慌てず対処できるようになります。さらに、失敗した後も落ち込みすぎず、教訓を得て再挑戦しようと思うのです。
 正直に言えば、私が経営している会社がつぶれるのではと、これまで何度も思ったことがありました。そのたびに怖くなり眠れないこともありました。しかし、大きな危機を乗り切るたびに、あの危機に比べれば「大したことない」「何か方策がある」「何とかなる」という前向きな気持ちがわいてきて、自分を励ましてくれるのです。
 それだけではありません。いつしか「リスクを楽しむたくましさ」が身についてくるのです。新しい挑戦をすること、リスクを乗り越えることが、自分の価値であり、人生の意味であるとさえ思うようになります。まさに「起業家体質」に変わるのです。

A.「失敗の痛み」と「成功の喜び」を繰り返し体感すること

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