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2013年07月01日(月)更新

【新著連載】前例がないことに挑戦できない

15万部突破!『すぐやる!技術』の著者であり、当「経営者会報ブログ」のプロデューサーでもある久米信行さんの次回作ご執筆原稿をリアルタイムで公開させていただいております! ぜひコメント、トラックバックをお寄せください。

Q30、前例がないことに挑戦できない

→前例のない挑戦は、君の知らない君に会うための登山口

 悩まずに動ける人と言いわけして動けない人では、同じものごとを見ても、その見え方と考え方が違います。なかでも、最も違いが出るのは、前例のないチャレンジを目の前にした時でしょう。

●「そこに、高い山があるから」どうする?

「挑みがいのある高い山」が現れた時、起業家は目を輝かせて心臓を高鳴らせているのに、小勤め人はうつむいて目をそらそうとするのです。この違いのもとはただ一つ。山を登るつらさの何倍も心地よい「山頂の眺めと美味しい空気」「言葉にできない達成感と自信」を味わったことがあるかどうかです。だから、若いうちの登山が大切です。 
 具体的には、常に会社の上司やキーパーソンに「山に登りたい」と言い続ければいいのです。面接の時、仕事で同行した時、食事をご一緒している時…あらゆる機会をとらえて、「新しいこと前例がないことにチャレンジしたい」と言い続けるのです。
 そうすれば、上司が「山登り」をする時に真っ先に誘われるはずです。最初の山登りでは、ひどくつらい思いをするでしょうが、人間の適応力はすごいもの。何度か登るうちに不思議と体が慣れてくるものです。そして、いつの間にか病み付きになるのです。

●魔法の言葉、教えます

 思えば、私の人生最初の「前例なきチャレンジ」も、上司に言い続けた「魔法の言葉」が呼び寄せたのでした。イマジニア株式会社の新卒第一期として、私は営業部門に配属されました。
 しかし、隣りの部署の商品開発担当役員 飯田祥一さん(現オフィスアイ代表取締役)が、独創的な考えの持ち主で、いつも面白いお話をしてくださるのです。ですから、私も営業現場で拾ってきた耳寄りなお話を拾ってきては、飯田さんにもお話をしていました。
 そして、会話が弾んでいる時に、「誰がやっても同じ結果が出る仕事はしたくない」と口癖のように言い続けていました。今、思い返すと、なんとも生意気な発言で赤面ものですが、若い時は恐れを知らないものです。
 しかし、実はそれこそ「魔法の言葉」でした。日本発の株式投資ファミコンゲームソフト「松本享の株式必勝学」のプロジェクトが立ち上がった時、なぜか営業部門の私が抜擢されたからです。ただし、人材不足のベンチャーゆえ、昼は営業で、帰社後から終電まではゲーム企画という厳しい辞令でした。
 よく考えてみれば、文系人間でゲーム嫌いの私がゲーム作りに挑むのは、生まれてから一度も運動や山登りをしたことがない人が、未知なる高い山に登るようなことです。しかも、ただでさえ知力や体力が乏しいのに、昼間の飛び込み営業で疲れ果てた後で登れと言われているのです。

●「損得勘定」で考えるより反射的な感情で動く

 ところが、若い時は、いい意味で「うかつ」です。損得勘定を考えるより先に「なんだか面白そう」「この人と山に登りたい」と体が動いてしまうところが良いのです。
 もちろん始めてみれば驚きの連続です。楽しそうなゲームも裏のプログラム作りはロジカルシンキングの嵐です。
 文系人間の私には苦手…と思いきや、意外にもフローチャートを書きながらストーリーを書くのは、楽しい仕事でした。本を読んで空想するのが好きで、趣味で童話も書いていた私にはピッタリだったのです。
 ロジカルというと冷徹で客観的にというイメージですが、「主人公の個性だったら、この状況なら、こんな気持ちになって、おそらくこのように動いて、こうした結果になる」と感情と行動を先読みするのは、立派な論理的思考なのだと気づきました。さらに、大学のゼミ恩師の平野先生から「あなたの言いたいことをひと言で言うと?」「なぜ?」と、さんざんしごかれてきたことも「短く結論と理由を伝える」発想と表現に役立ちました。
 ひそかに、飯田さんは、私とのたわいもない会話や営業レポートの記述から、私が「ロジカルシンキング」をできる人間だと見抜いてくれていたのでしょう。そして、「誰がやっても同じ結果の出る仕事はしたくない」という「生意気きわまりない言葉」も、新しいゲーム作りに必要な気概だと感じてくださったのです。
 今、考えると、飯田さんと雑談をしながら、深夜まで手探りでゲームの企画を考えて行った数ヶ月は、私にとってかけがえのない時間でした。飯田さんは、若輩の私に大切なエンディングやBGMの企画を任せてくださいました。あの面白さを若くして味わってしまったので、「前例のないプロジェクト」と聞いただけでワクワクします。きっと「自分が知らない世界」と「自分が知らない自分」に出会えるからです。

→前例のない挑戦は、君の知らない君に会うための登山口